四川省の家 『偉大なる道』第1巻②ー1

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朱将軍が四川についてかたるときは、いつも壮麗な景観にふれた。

省の西境の空にえんえんと連なる大雪山脈から、東につき出した長い山脈の一部分が、彼の家の上にそびえていた。

その大雪山脈と北につき出した支脈が、省全体と赤色盆地といわれる平野を取りまき、この省の気候を温暖でさわやかなものにして、温帯と亜熱帯の多種多様な植物をわき立つように繁茂させていた。

赤色盆地の中心には省都の成都があり、一帯では年中収穫を得ることができ、中国でもっとも豊かな地方のひとつになっていた。

またこの地方は塩やいろいろな種類の鉱物にもめぐまれていたので、「四川は、ここを併合しようとする仏英の帝国主義者に、絶えずねらわれていた」とも朱将軍はいった。

「四川の花を見たことはありますか」と彼は突然たずねた。
「びっくりするぐらい大きくて、きれいで、香りが高くて、何里も周囲までにおってくる」


この雄大な自然美にかこまれて、何十年の雨と雪のために崩れそうになった陰気で古い彼の家がたっていた。

東西に長い主屋部は南向きになっていて、屋根は灰色の瓦で、荒けずりの白木の扉はみな木製の軸ではめられていた。
中国内地ではたいてい、このような扉ははずして寝台にすることもできた。

わらぶきの両翼部は主屋部から突きだしていたから、全体は四方形を半分に切ったような形になっていた。

窓はなく、扉だけが光線を取りこみ、床はなめらかにカチカチに固めた土だった。
家屋は泥塗りで、色はない。
あたたかな日には、家族は半開きの中庭で食べたが、ここは収穫時の脱穀場にもなった。


入ってゆくと左手にある台所と、主屋部の正房のほかはみな寝室だった。

豚や家畜のための差し掛け小屋もあった。

主屋の正房は家族が集まるところであり、また客をいれたり何かの式をしたりするところだ。

部屋の真ん中に荒けずりの四角い卓があり、まわりに椅子がおいてある。
卓の真うしろの壁の前には、先祖の位牌をいれた仏壇があるーー位牌というのはよくみがかれた小さな木片のことで、代々の先祖の名が記されている。

小さい粘土製の観音像ーー道教と仏教に共通の「聖母」が、仏壇のまえの棚においてある。

観音とは慈悲の女神であり、嵐にあった漁夫など、すべて災厄の中にあるものが救いをこうことができる。


この先祖の祭壇に、一年に何度か、ーーたとえば旧正月とか、清明節とか、七月十五日のお盆の日などに、家族はわずかながらの供え物をささげた。
旧正月が近づくと、彼らは、台所のかまどのうしろの壁から、汚れたかまど神の絵をはがして、野の蜜で唇をぬり、この神が一家のことを天にいいように報告してくれることを祈り、それから中庭で燃やす。
正月には、新しい神の像の絵が米ののりで壁にはりつけられる。



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by far-east2040 | 2018-03-19 21:05 | 第1巻「道の始まり」改編