大自然のなかの延安 『偉大なる道』序曲ー5

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           延安でバレーボールを楽しむ朱徳
       『抗日解放の中国 エドガー・スノーの革命アルバム』(サイマル出版会)より借用


彼が私の仕事に協力してくれることになった最初の夕方、私の中国語教師であり、秘書と通訳をかねたリリー・チャンという若い女優と、私たちが住居としていた黄土の洞窟の前の露台で、私は彼を待っていた。
私が中国語を理解できないときや、朱将軍と私が部分的に使うドイツ語がうまく伝わらないときがたびたびあったのだが、リリーの役目はそういうときに通訳することだった。
待ちながら私たちは、眼下の谷間の小さな延安の町を見おろしていた。
その古い城壁の彼方に延水が流れ、河の向こうの黄土の断崖の上には塔が見え、さらに平たくひろがる谷間を延水は東にむかって、「中国の悲哀」なる黄河に合流するために流れていく。
今は練兵場で、近いうちに飛行場になる予定のその広い平地は、つい先頃は競馬場にも使われていた。
というのは、立派な体格をした騎馬武者である蒙古人の一隊が、紅軍と交渉するために北方から乗りこんできたからだった。
その際に朱将軍は布令を発して、すべての既婚婦人また娘たちに家にひきこもるか、遠来の客が歓迎の意味を取りちがえないようにふるまいに気をつけるようにと忠告した。


しかし私をふくめて女たちはみな、蒙古人と紅軍騎馬隊との競馬を見ようとその広場に出かけて行った。
蒙古の騎手たちが、毛むくじゃらの馬を馴らして疾走させ、鞍上でうんと身をそらして、最後には馬の背に寝たようになるのにすっかりおどろかされた。
ひとりの紅軍騎手が、朱将軍が私に贈ってくれた敏捷な小馬を私から借りて競馬に出場した。
たてがみを波立たせ尾を長く引くタンクのような蒙古小馬に、私のアラビア馬みたいな小馬が抜かれていくのを、リリーと私は声が枯れてしまうまで叫びながら観戦した。
今はもう蒙古人は、紅軍の軍事顧問と政治顧問たちをつれて内蒙古に帰ってしまっている。
日本との対戦の準備は進みつつあり、革命は内蒙古にまで波及していた。


将軍は時間をきちんと守る人だったので、約束の時間には、眼下の谷の小さな町の道筋を歩いてくるのが見えた。
風采のあがらない彼の後ろに護衛兵がついて歩き、彼はふりかえって話をしているようだった。
彼は、腰のあたりから少し前かがみになって歩き、脚はポンプのように動いていた。
あの調子で中国の山野の何千マイルという果てしなく長い道のりを踏破してきたのである。
黄土の断崖をのぼってくるとき、しゃがれた咳をしきりにしていたが、それは、西康省の万年雪におおわれた山岳地帯で気管支をいためていたからである。
一度立ちどまって、腰に自動拳銃をつけた若い護衛兵と、延水の谷をながめ、指さしながら何か話し合っていた。
その谷にダムを築いて洪水をふせぎ灌漑をほどこし、裸の山々と谷間に植林するという計画があると町では噂されていた。
彼らの声はここまでひびいてきた。
彼のややしゃがれた深味のある声が、彼の倍ほどの背丈がある好男子の護衛兵の高くいきいきとした声と入りまじっていた。
その光景を見て、この中国の大革命には、朱将軍の世代や、あの若い護衛兵の世代、さらに若い十代の人々の三世代がまきこまれているのだと私は再認識した。


将軍と若い護衛兵が、丘をのぼって私たちの露台にきた。
私たちと露台を共有している農民の一家は、彼の声を聞きつけると飛び出しきてにぎやかに歓迎した。
農民対農民なのである。
彼は農民一家の家族に取りまかれながら、少年の頭を軽くたたき、母親の腕から赤ん坊をとって高々と差し上げていっしょにわらった。


このような環境と雰囲気の中で、この本は書きはじめられた。



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by far-east2040 | 2018-02-03 10:21 | 序曲 改編