国民党軍と日本兵 歴史との出合い②ー3

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朱徳が八路軍の戦略について話している途中に彭徳懐が入ってきた。

普段は厳格なしぶい人だが、敵の背後の広大な地域で起こった数々の小さな勝利を報告する彼は実に楽しそうだった。

朱将軍は、色あせた赤い星のついたみすぼらしい軍帽を刈りたての頭の後の方へずらしたまま目を細めて聞いていた。


「あなたは、われわれの大衆動員と大衆訓練の方法を視察した方がいい」彭将軍は楽しそうに手を振りながら大声でいった。

「人民は海で、われわれはその中を泳ぐ魚のようなものだ。

これは民族革命戦争だ。

勝利はわが部隊の勇気と自信と戦闘力と、指揮官と戦闘員の親密な関係、われわれと他の中国の軍隊との緊密な協力、そうしたものにかかっている。

われわれは兵隊や民衆の間で、猛烈な政治工作をやっている。

民衆は男も女も子どもも、ひとり残らずわれわれのまわりに結集している」


彭将軍は両手をテーブルにつっぱって続けた。


「もちろん、あなたは力強いスローガンやポスターをたくさん見られるだろう。

しかしもっと大切なことは、わが部隊や遊撃隊や民衆を教育することだ。われわれの目標は深い民族意識を発達させることであり、敵の状況ともくろみについて、わが部隊と民衆を啓蒙することだ。

勝利はただでは得られないことを、みなが認識しなければならない。

戦争はいま始まったばかりだ!」


朱将軍は目を細めたままだったが、じっと一点に目をこらす様子で答えた。


「そのとおりだ! 
だが国民党軍ももっともっと変らなければならない。
国民党の将校は、いまでも兵隊をどなりつけたり殴ったりしてーー不合理な服従を強制している。
あれは封建的なやり方だ。
あれをやめて、友情、相互の尊敬、信頼と助け合いでゆくべきだ。
悲惨も幸福も、全部のものがわけ合わねばならない。
将校と兵隊の生活状態も大体同じようにして、みなが心から戦場に立てるようにしなければならない」


「そんなことできますか」と私(スメドレー)が懐疑的にたずねると、いつも楽天的な朱徳は答えた。


「それには時間がかかる。
わが軍は模範にならなければならない。
戦争がつづくあいだに、国民党軍を改革してゆく必要があり、それでなければ敗北するだろう。ところであんなに多くの中国人の傀儡どもが日本軍の側で戦っているのは、なぜだろうか? 
中国人によって中国を征服する、と日本人が自慢するのは、なぜだろうか? 
その理由は、国民党が、国内の封建的諸条件や軍隊内の封建的やり方を一掃するための努力を、何一つしなかったからだ。
われわれは国民党に、その非をさとらせて、また傀儡軍をわれわれの方に引きつけなければならない」


朱と彭は、林彪の師団が平荊関で日本の一個旅団を全滅させた話をしてくれた。

そしてその他の戦闘でも、日本人は負傷した場合でなければ、決して降伏しないという話もした。

負傷者さえ死んだふりをしているということだった。

八路軍の担架兵が彼らの上にかがむと、いきなり飛び起きてきて兵を殺した。

賀竜の部隊が敵の輸送隊を潰滅させたときなど、日本兵がトラックにしがみついて、斬りおとすまで離れなかった。

賀竜の部隊は、日本兵の死体のポケットから日本共産党や日本反ファシスト連盟の署名のある反戦ビラ多数を見つけた。

朱将軍はこのビラのことを話しだすと昂奮してきた。


「おそらくわれわれは、われわれの同志たちを殺していることだろう!」と彼はさけんだ。
「だが、仕方がない。
これからは、わが軍の兵隊も、日本兵にむかってわれわれは捕虜を殺さない、とさけぶだけの日本語をおぼえねばならない。
敵の兵隊は将校から、紅軍は捕虜をすべてなぶり殺しにするとおしえられているのだ」


朱将軍は中国語に訳されたビラのひとつをわれわれの前に置いた。

その一部分をあげるとーー


「満州事変前後を通じて死んだ、あわれな二十万の兄弟たち!
いったい誰のため、何のために死んだのか?
軍国主義者たちのためだーーわれら自身の国の軍国主義者たちの野心と貪欲のためなのだ! ふたたび奴らの手におどらされていいだろうか?
親愛なる陣中の同志諸君!
軍国主義者どもに、われわれの兄弟の生命をかえせと要求しよう。
われわれはたちあがって、われわれの真の敵――軍閥と財閥とに銃をむけなければならない。
彼らを打倒してはじめて、われわれは、極東永遠の真の平和を成就することができるのだ」


                               紫字はアグネス・スメドレー著 阿部知二訳『偉大なる道』より抜粋


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by far-east2040 | 2017-05-25 21:07 | 朱徳の半生(改編後削除予定)