北朝鮮帰国事業を描く映画『キューポラのある街』

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1961年に出版された同名の小説『キューポラのある町』は現在は公共図書館で探すのは苦労すると思うが、アジア図書館ではKOREAを知るための文学書の1冊としてさりげなく棚に納まっている。


1962年に公開された吉永小百合さんが演じる多感な十代の少女の成長物語だけれど、その時代の北朝鮮への帰国事業に沸く下町の人情を描いていることが、私には興味深い映画作品になっている。


あらすじはWikiによると、

中学3年の少女ジュン(吉永小百合)は、鋳物職人の父・石黒辰五郎(東野英治郎)が解雇されたことからはじまり、貧困・親子・小中学生の不良化・民族・友情・性など多くの問題に直面しながら、まっすぐに生きていく。


舞台は埼玉県川口市の鋳物の街。ほとんどの人にとってなじみのないキューポラ(鉄の溶解炉)ということばを知らしめたこともこの映画の功績の1つだと思う。

事業自体は1950年から1984年まで続いたとあるが、この映画は1962年前後の関東の下町での状況を描いていることになる。

当時の帰還事業がどんなものだったかを知りたいなら、この映画はとても参考になる。

昭和の下町の雰囲気が濃厚だ。
こういう町ぐるみのお祝いムードの中で多くの在日Koreanたちが北朝鮮に行ったのだと思うと、現実を多少知った今は複雑な心境になるのだが。

当時にそれを求めることはできない。あまりにも美化された情報が人々を酔わせたように思う。

「就職」と「生活」を保証するということがいかに人々に希望を持たせたか。

それと傍から見れば、Koreanが自分の祖国に帰ると見えたかもしれないが、この事業で帰国した人のほとんどは今の韓国をふるさとにしていた。
この帰国事業は韓国では北送事業と呼ぶらしいが、当然反対する立場をとってきたのもうなづける。

「かわいそうやな。ほんとは大変な生活が待ってるのに」なんて陰で考える日本人関係者はほとんどいなかったと思われる。

在日にしても極端な反共主義者でなければ、悪いものとしては写らなかったと想像する。

映画の中の人々の持つ雰囲気は社会党系のシンパの人たちと思っていたが、原作者早船ちよさんは共産党員だったことを知って認識を新たにした。

原作をぺらぺらめくって読んだことがあるが、映画もそうだが、いかにも「貧しいが明るい」ところが私には作者の気質が表れているように思う。
主人公ジュンが同級生の友人に、帰国したら高校へ入学させてもらうように純粋に語るシーンなんか、現実はどうだったんだろうかと思うと、つらい。

よく見かける脇役の俳優で、帰国する在日Korean役をしていたが、壮行会のような場で日本人たちの前で涙ながらに礼を述べるシーンが「名演技」で、現実にはこんなシーンあったんだろうかと考えると笑える。
庶民にとっては、生活できることが大事であって、イデオロギーなんてむずかしく考えることはなかったにちがいない。

Koreanとして生活できること、進学できること、働けることに共感しただろうなと思う。

小説のストーリーは起伏に富んだところもなく、それほどの魅力を持っている作品とは思えないけれど、主人公の背景で帰国事業をさりげなく描いていったところがユニークなものにしている。こんな作品他には見当たらない

さらに映像で時代の雰囲気を残してくれたということでは貴重な作品だと思う。


なお、この映画は多くの果実をもたらした。日活の助監督だった浦山悟郎の監督昇格デビュー作でありブルーリボン賞作品賞を受賞し、主演の吉永小百合さんも主演女優賞をとるなどして、女優として大きく飛躍するきっかけになったという。

彼女の健気な演技が、社会問題を扱う映画にありがちな硬さをゆるめて、この映画を名作にしてくれたように思う。
映画界という華やかな世界にいる現在の吉永小百合さんの人生の越し方、生き方にこの映画から1本の筋を引きたくなる。



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by far-east2040 | 2016-09-26 13:09 | 生き方・友情……