ハンナ・アーレントの著作と映画

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私はむずかしい哲学書は読めないのに、アーレントの本は読みたくて仕方がなかったときがあった。
しかし、せっかく手に取っても、ペラペラとめくってみた段階であきらめることが少なくなかった。

難しい原書からの翻訳であることも原因だと思う。

「どうしてこんなむずかしいことを考えてるのか」なんて思ったりして、1ページでがっかりしたこともあった。


代表作ともいえる『人間の条件』とか『革命について』などはある時期のある世代によく読まれたことは、古本屋で探しているときに、いかにも「なんとか世代」と呼べそうなご主人が教えてくれた。


私が読める著作はユダヤ人として、または人としての普遍的な生き方を論じたもの。

アーレントは女性であることにあまりこだわっていない感じがした。
じっくりと読んでいく中で「そうやな」とじわーっと納得できる瞬間が好きだった。

この女性は非キリスト教徒で多分非ユダヤ教徒でもあるけれど、ドイツ哲学を学んできた人だからか、書かれた文章の「人生」という語を「神」という語に置き換えても違和感なく読めた。


ヨーロッパでは「人生=神」なんだと私流に解釈している。

彼女の生き方論の中に、キリスト教の世界観に近いものを感じるときが、私が入っていける隙間でもある。
『パーリアとしてのユダヤ人』という著作が比較的読みやすかった。


もう彼女の著作は1冊も手元にないので、確認しようがないが、要するに人生に期待するのはまちがいで、人生から意味を汲み取れという内容の文章に特に惹かれた。

年齢を重ねると、逆の発想つまり人生に期待したり、真剣に願をかけたりすることは悲劇に通じやすいことはわかってくる。

でも、人間弱いので、私なんかもよくやってしまう。


人生から意味を汲み取る際、キリスト者は人生を人格神にして、さらに人間に近いイエス・キリストという介在者を置いて安らぎを得ている。

これは神学から離れた自己流のキリスト教解釈。


アーレントは有名なドイツ人哲学者ハイデッガーの教えを受けた学生であり、後に愛人としても知られていて、ハイデッガー自身が著作を完成させる上で彼女からインスピレーションを受けたことを率直に語っていたらしい。

こういうふうにいわれて、アーレントはどう思ったのか知りたいところ。


哲学書を楽に読みこなせない私から見れば、ハイデッガーの功績は今一つわからない。

「時間」とか「存在」という実態のないものだけで論文が書けるというのが、哲学の深みについていけない部外者から見れば驚異に値する。

だから二人の関係でみれば、ハイデッガーになんとなく不審感持ってしまうのだが。


この女性の書物を通じて、戦前戦中のヨーロッパのユダヤ人が善で、迫害したドイツ人が悪という単純な構造で捉えることが間違いであることを教わったのだが、これは衝撃的で受け入れがたかった。

ユダヤ人側からの協力や取引などもあったようなことも書いていたと思う。

ユダヤ人大量殺戮に濃厚に関係したアイヒマンの裁判を傍聴して、そこにいるのは命令に忠実な小心な役人にすぎないと記事にしたりと、イスラエルという国家がこの裁判をショーにしたと批判。


こういう独特の言論活動を通じて、ユダヤ人の友を失ったり、イスラエルという国家から敵視されてたようで、それでもすべてを語っていないだろうとあの歴史家鬼塚英昭氏は強い語調で書いていた。


ユダヤ人の迫害と大量殺戮は歴史的事実なので、どう考えていいのか簡単に論じることができない。


2012年に映画「ハンナ・アーレント」が公開されたので、アーレントのファンの一人として興味津々で観たことがある。

実に美味しそうにたばこを吸う人で、人差し指と中指でたばこをはさみ、フーと口から煙を出すシーンが多かった。大学で講義するときの机にすわって語るシーンといっしょに意外な彼女の側面だった。

それとパートナーはおしゃれで生活感がしない男性でイメージどおりだった。

ハーレントとは違って大学にはいかず、在野で理論武装してきて、物事を受け止めるのに柔軟性がある人物と見えた。


問題はハイデッガーで、ミスキャストではないかと思った。

写真で見ると、もっと精悍なイメージがあったのだが、映画の中では、ちょっとはずすと○平なオジサマのような軽さがあって、首をかしげたくなった。


アーレントとハイデッガーはナチスに協力した哲学者とナチスに追われた女という理解しにくい関係を戦後も築いていたようだ。

アーレントが亡くなったとき、テーブルには夫とハイデッガーの写真が入った額縁が置いてあったという。このあたりやはり「哲学」を専門とする「超知識人」のお二人ということで、ここまで。

今の時代に生きていたら、大事なのは愛国心という集団への愛ではなくて、人々の中で築く友情だといってくれそうだ。

こんな女性哲学者これからも出てくるかな。


ハンナ・アーレントの著作をほんの少しかじったことは、その後の生き方にいい影響を受けたとしみじみ振り返ることができる。


出会えてよかった。



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by far-east2040 | 2016-09-23 12:49 | 生き方・友情……