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雅州地方に入ってから、一行は真東に向かって、四川におりていった。

彼は、この雅州においてアヘンとの決別をした。

そのころの朝晩、彼は、アヘン中毒をなおすために数ヵ月前に買った広東の薬草を煎じてのんでいた。
彼はその飲み物の効果を信じてすがるように飲んでいたが、苦しいもがきはつづいた。

アヘンが切れると、夜もねむれなくなり、体は衰え、消耗して、馬にのる力もほとんどなかった。
5月の半ばに、一行が
南渓の彼の夫人の家についたときにも、彼はまだ不眠症に苦しんでいて、真夜中に起きては、歩きまわったり本を読んだりした。
しかし、勝利の道には進んでいっていた。


逃亡者たちは、四川軍閥の手先がいたるところにいて、彼らの到着を知っていたにもかかわらず、手出しをしないのを不思議がった。

彼の夫人や旧友たちは、雲南府で捕らえられた同志たちの悲惨な最後について語ったが、四川軍閥はいまや確乎たる力で根をおろしていて、経験豊かな軍人を味方に入れようと努力している、とも説明した。
一行はすぐに舟にのって沿岸に向かったが、朱将軍だけは数日妻子のもとにとどまった。
彼の息子は6歳になっていて、色が浅黒くて、ぺちゃくちゃとおしゃべりをして、彼の小型のような快活な子どもで、父の膝にのぼって、母に教わった本を読むのが大好きだった。


「苦力」坊やはほこらしげに読む、「それは、苦しい力、ということです。
苦――見て、これはおじいさんの顔のように、ねじ曲がっています。
この人は痛いのです。
この人のくらしは苦しいのです」


朱が沿岸に向かって出発しようとする間際に、四川東部を支配する軍閥楊森から電報がきた。
楊は「老朋友の名において」彼を賓客として重慶に招いたのである。

朱は承知したという意向を返電し、妻子に別れをつげた。
それから彼はふたたび彼らに会うことはなかった。
13年後に、彼らは西方の軍閥によって殺された。



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# by far-east2040 | 2018-06-24 09:00 | 第3巻「災厄と禍害」改編

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「彼と私は友人になり、何時間も中国の現状について話しあったりした。
するどい理解力をもった男で、私に数かぎりないほど質問をあびせかけ、また私にむかって、この土地にとどまって相談相手になって指導してほしい、とせがんだ。
私が外国留学の決意をはなすと、がっかりした。
出発のときには、私は自分が持っているものの中でいちばん貴重なものだった、自動拳銃と立派な美しい愛馬をおくった。
そのかわりに、ただ山地産の小馬をもらって旅をすることにした。
私はまた、南渓の私の家内の居所をおしえ、彼がその地方に旅行するとか、逃亡して避難せざるを得ない状況のときには、そこをわが家と思うように、といった。


「出発のときには、彼は何里となく馬で送ってきて、それから、武装の従者に命じて、領分のはずれの会理のすぐ近くまで送らせた。
何ヵ月かのちに、私が上海にいて、家内から受け取った手紙の中には、彼が使いを南渓に出して私の馬をとどけ、私の安否をたずねた、とあった。

1年後、私はドイツにいて、また家内の手紙を受けとった。
レイ・ユン・フィは、自分で南渓にやってきて、私を連れて帰ろうとしたのだ。
私が外国に行ったことを聞くと、すっかり気を落とした。
家内の一家は、賓客として彼をもてなした。

それからまた1年たったころ、私が故国の新聞を見ると、彼は、四川軍閥劉湘の甥とたたかって死に、彼の領土は奪われた。
私は悲しくてしかたがなかった。
レイ・ユン・フィは、彼の敵よりもはるかにいい人間だった」


レイの領土をはなれると、朱徳の一行は名前を変え、職業は商人にして、こういう危険な土地の旅だから、武装のものを連れている、と周囲に説明した。

雪をかぶった山岳地帯を馬で越え、それから大渡河をわたったが、そこは60年前に石達開ひきいる太平軍がせん滅されたところである。

朱将軍がこの地方を旅したという経験は、13年後に彼が中国紅軍をひきいてここを通過するときに、大いに役に立った。



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# by far-east2040 | 2018-06-23 09:00 | 第3巻「災厄と禍害」改編

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           水滸伝の英雄を描いた皿(Wikiより借用)


朱将軍は、レイ・ユン・フィ深く同情しながら語った。
彼がいうには、この男はかつて貧農だった。
すべての貧農がそうであったように、彼もまた文盲であり、彼の教養といえば「百八人の英雄」すなわち『水滸伝』のような圧政への反抗の昔物語などによって形づくられていた。
1911年革命の前々から、革命のあいだにかけて、彼と哥老会の仲間は、共和派の同盟会とかすかにつながっていた。
革命時には、彼はこの地方の農民と手を組んで、地主たちを追い、土地を取りあげて分配した。
レイは、精力的で、まれに見るほどの指導と組織の才能をもち、農民をあつめて軍隊をつくったが、この1922年には5千人になっていて、珍しいことには、ロロ族さえふくんでいた。
地主階級と四川軍閥は、彼を凶悪な土匪のかしらとよんでいた。


「たしかに土匪にはちがいなかった」と朱将軍はみとめる。
「凶作で食糧が不足すると、彼は自分の領分の外に出て、賑やかな町を掠奪して、金持ちから取ったものを貧民に分けた。
軍閥にくらべれば、彼の方が正当で潔白な市民だった。
つまり、匪賊ということも階級的観点によるのだ。
りっぱに成功した匪賊は、領土をもち、子孫は貴族になるではないか。


「1911年革命が流産して以来、レイは多くのふしぎなできごとを見聞した。
多くの人間が逃れてきたが、彼は彼らを保護した。
彼は、むかしの偉大で情深い匪賊のかしらたち、民間の文学の中で活躍して人民に崇拝されている連中に、あやかろうとした。

1922年には、彼の領地を征服しようとする四川軍閥にひどく圧迫されていた。
彼はたびたび敵を追いかえしていた。



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# by far-east2040 | 2018-06-22 09:00 | 第3巻「災厄と禍害」改編

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2日後に亡命者たちは、北方からこちらに乗りつけてくる騎馬の一隊を見たが、そのなかに、仲間の顔も見えた。
こちらは馬からおりて待ち受けた。
騎馬隊は近づいてきて、そのなかで短身で屈強な、三十代と思われる男が、きびきびとした威勢のいい動作で馬からおりて歩みよってきた。
朱徳と彼の仲間は、なかば恐れ、なかば希望を感じながら立っていた。
その男は、近づいてきておじぎをして、旧時代的な礼をもって歓迎の意をあらわし、自分は、レイ・ユン・フィであり、みなさんを客人と見なす、といった。

朱徳はこの男はひょっとすると自分と同じように哥老会のものではないかと思ったので、挨拶のときにちょっと変わった言葉をはさみ身振りをした。
血盟の兄弟であるならば、どこの地でもたがいにわかる。
挨拶をかえすときのレイの目は輝き、期待どおりの合図をしたので、この瞬間から、亡命者たちは二重の安全をえた。

この待遇に感謝して、亡命者の一団は、その場でレイにいくつかのライフル銃を贈り物にしようとした。
レイは辞退したが、彼らは、申し出がただの儀礼ではないことを証明するために、三度くりかえした。
それからレイは一団を山村の要塞にみちびき、豚、山羊、羊を殺して宴を張り、何百の客が加わった。
客人のあいだを紹介してまわるレイの立ち居ふるまいには、貴人としても恥ずかしくないものがあった。

亡命者たちがここに10日とどまる間に、みなのために平服がつくられたが、それは彼らがこれからは商人として敵地を旅するためであった。



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# by far-east2040 | 2018-06-21 09:00 | 第3巻「災厄と禍害」改編

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長年の同志と別れたあと、朱将軍の一行は、北雲南の深い山岳地帯を強行軍した。
羅将軍は、保護を求めた際に、北方組のとった道を教えた。

ホァ・フェン・クォは、騎兵大隊に追跡させ、また多額の賞金をかけて捕らえようとした。


おそるべき人狩りがはじまった。
夜は野宿し、未明から深夜まで強行軍をしながら、逃亡者たちは、とうとう金沙江に達することはできたが、どうしても渡し舟が見つからなかったので、追跡をふりはらって西康省ににげこむことができなかった。

一団は、二つにわかれて渡し舟をさがすことになり、高くけわしい山道を、はるか眼下に暗黒の深淵に氷のような激流がくだけるのを見おろしながら、伝っていった。


朱徳の一行が、先に渡し舟をみつけ、護衛兵を残りの連中に道を教えるために引き返させてから、江をわたった。

その連中もやがてたどりついてきて、わたりはじめた。
6人の指導者と少数の護衛兵だけをのこして、他のものみなが渡りおえたとき、敵の大隊が追いついてきた。
短時間の死闘があり、彼らはみな、殺されるか捕らえられた。


先に渡ったものは、西康省に入っていたのだが、敵もまた江をわたり追跡してきた。
しかし、この地方はレイ・ユン・フィという土匪の首領が支配しており、その小王国は江岸から北に騎馬行程で5、6日の会理にまでのびていた。
亡命者たちは、まもなくレイの境界守備隊と出会ったので、自分たちは亡命者であるが、首領にお目にかかりたい、と申し込んだ。

領域を守ることに忠実な守備隊は、亡命者にむかって、誰かが先に急いで行って首領と交渉し、他のものは後からゆっくり行け、と命じ、われわれが侵入する敵を追い払う、といった。



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# by far-east2040 | 2018-06-20 09:00 | 第3巻「災厄と禍害」改編